WHO上級顧問・渋谷健司さんが警鐘 「手遅れに近い」状態を招いた専門家会議の問題点〈AERA〉

――日本の状況をどう見ていますか。

手遅れに近いと思います。4月8日に出された非常事態宣言ですが、タイミングとしては1週間遅れたと考えています。

専門家会議のメンバーの西浦博北海道大学教授は4月3日、東京が爆発的で指数関数的な増殖期に入った可能性を指摘しています。その2日前の、1日には専門家会議が開かれていました。この日は、宣言を出すように促す最後のチャンスだったと思います。1週間の遅れは、新型コロナウイルスの場合、非常に大きいのです。

クラスター対策は有効だったか

――新型コロナの感染拡大防止には「検査と隔離」が基本と言われています。けれども、日本は「クラスター」と言われる感染集団の対策を重視してきました。日本の対策は有効だったのでしょうか。

クラスター対策とそれを支える『積極的疫学調査』の枠での検査を進めたので、保健所とその管轄の衛生研究所での検査が中心となりました。
まだ感染が限られていた初期は、保健師さんのインタビューと質の高い検査データで接触者を追い、その感染ルートを追いかけて、クラスターを潰すという方法が有効でした。

しかし、それではいずれ保健所の負担は増し、検査キャパシティーが限界になることは明らかでした。

検査については、保険適用になった後も医療機関から保健所に許可をもらい、その上で患者は帰国者・接触者外来に行って検査をする必要があります。

こうした複雑な仕組みのために検査は増えず、結果として経路を追えない市中感染と院内感染が広がってしまいました。


――初期段階でのクラスター対策は有効とも指摘されました。日本ではどの段階で「徹底的な検査と隔離」に方針転換する必要があったのでしょうか。

早い段階で感染が拡大した北海道などの地方都市ではクラスター対策が有効でした。しかし、大都市では感染経路をすべて追うことは非常に困難です。『どの段階』というよりは、そもそも検査を絞り続けた戦略がよくありませんでしたし、今こそ『検査と隔離』の基本に戻るべきでしょう。

――日本では当初から「検査を抑えて医療態勢を守る」という考えがありました。そもそも、世界の専門家の間でこのような手法はどう評価されているのでしょうか。

検査を抑えるという議論など、世界では全くなされていません。検査を抑えないと患者が増えて医療崩壊するというのは、指定感染症に指定したので陽性の人たちを全員入院させなければならなくなったからであり、検査が理由ではありません。

むしろ、検査をしなかったことで市中感染と院内感染が広がり、そこから医療崩壊が起こっているのが現状です。

――政府の専門家会議は、機能していると考えていますか。

科学が政治から独立していないように見受けられ、これは大きな問題だと感じています。

先ほど指摘しましたが、4月1日時点で「東京は感染爆発の初期である」と会議メンバーは知っていたはずです。それならばそこで、緊急事態宣言をすべしという提案を出すべきでした。

しかし、この日の記者会見で出てきたメッセージには、国内の逼迫(ひっぱく)した状況を伝えてはいたものの、『我が国では諸外国で見られるようなオーバーシュートは見られていない』といった国民の緊張感を緩ませるような言葉もまぎれていました。

一方で、米国のトランプ大統領の妨害にもかかわらず国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は凛として科学者としての役目を務めており、大統領とは全く違う声明も出します。

彼は『自分は科学者であり、医師である。ただそれだけ』と述べています。そういう人物が今の専門家会議にはいないようです。

■「3密」「夜クラスター」以外の感染ルート

――日本の感染拡大防止策がこのまま自粛ベースで行われた際、何が起きると考えていますか。

自粛ベースでも外出が実質削減されればそれで構いませんが、現在のように飲食店は開いたまま、在宅勤務も進まない状態が続けば、感染爆発は止まらないでしょう。いずれ、ロックダウン的な施策が必要と考えます。

―― 一人一人はどう行動すべきでしょうか。

「家にいる」ということです。「自分が感染者かもしれない」と考えて行動すべきです。密閉、密集、密接の「3密」や夜クラスターを避ければよいというメッセージでは、逆に、「自分は関係ない」という意識を持ってしまう可能性があります。それ以外の感染ルートの可能性もあります。実際に感染経路を追えない市中感染が多数を占めているので、注意が必要です。